レンティア国家とその限界 ~ナウルの事例から~

大学時代に調べたナウルの情勢と組み合わせ、お菓子とお茶を楽しみながら徒然なるままに書きます。長い上に文章だけなのでそういうのが嫌という方はご注意をば。

NRU.png

《リン鉱石の島 ナウルの栄華》
1968年に独立した太平洋の島国ナウル共和国は、1970年にリン鉱石事業を国有化。リン鉱石を大量に採掘し、それをオーストラリアなどに輸出することで、人口1万人の小さな島国としては余りある貿易黒字を計上。これによって、ナウル国民は政府により支給されるお金で生活が出来ていました。国民は働くことを忘れ、リン鉱石の採掘どころか、国内の商店まで外国人労働者に経営させ、この世の春を謳歌していたのです。当時、政府職員以外に働くナウル人はいない、とまで言われていたそうです。

ちなみにリンはリン酸として化学肥料などに使われる物質で、三大肥料(あとの2つは窒素とカリウム)と言われます。ナウル島には鳥の糞や死骸などが化石となって出来た「グアノ」と呼ばれるものが堆積していましたが、このグアノにリンが大量に含まれていたので、ナウルはこれを採掘しては輸出し、生活物資を輸入する、という経済構造を持つようになったのです。


《資源の枯渇、そして迷走》
さて、こうしてリン鉱石を売ってはお金をバラまく、ということを続けていたナウル。リン鉱石が大量に採れているうちはそれで上手くいきましたが、1980年代末より徐々に産出量が減少。リン鉱石は安価なので大量に輸出しないと生活水準が保てませんが、そのリン鉱石が無くなってきたとあっては大変です。ナウル人の大好きな煙草(喫煙率世界第2位)どころか、日々の糧にも事欠くようになってしまいます。これを回避すべく、ここからナウル政府の奇抜な''経済政策''が始まります。

外資導入への規制を無くし、金融立国を目指したり(マネーロンダリングの温床になるとして非難され白紙に)、海外のリゾート地の土地を購入し、ホテルや住宅を経営してみたり(外国人任せの放漫財政で失敗)、中国と台湾への承認と断交を交互に繰り返してその度に援助を受け取ったり(結果、双方から信頼を無くす)、アフガニスタン難民を受け入れる代わりに支援を要求(そもそも小さなナウル島にそんなキャパシティは無い)したり…。

その政策はまさになりふり構わないものでしたが、そうこうしているうちにリン鉱石の採掘量はどんどん減少していきます。最盛期で年間200万t、減少中の1994年ですら約60万tだった採掘量が、2006年には既に2万tを割り込んでいます。今年はどうでしょうか。1万t採れるかな? ともあれ、タイムリミットはもうとっくに過ぎています。


《レンティア国家の脆弱性》
こうして見ると、輸出するものこそ違えど、経済構造としては産油国みたいなものですね。このように、不労所得で国民を養い(つまり、たまたまそこにあったものを売って国民に還元)し、それを政府の正統性に繋げる国を、政治学では「レンティア国家(rentier state)」といいます。

レンティア国家の限界は、何と言っても資源の有限性にあります。リン鉱石であれ他の資源であれ、可採量には限界があり、それが無くなれば終わりです。よって普通なら資源の輸出により潤沢な資金があるうちに、他の産業や人材の育成、インフラの整備などに資金を投入し、枯渇後も引き続き産業国家としてやっていけるようにします。

しかしどうもナウルを見ると、行き当たりばったりな奇策でその場を通り抜けよう、という気持ちが感じられます。上記のような奇抜な経済政策はことごとく失敗しており、現在のナウルは外国からの援助無しでは生きていけない状態です。2003年には資金不足で通信機器を維持できず、一時的に国そのものが音信不通になったこともあります。これも、技術者を育てておけば防げた事態のはずです。


《まとめ》
ここまで見てきて感じるのは、やはり現代経済の基本であるヒト・モノ・カネの適切な運用がなければ、国というものはみるみるうちに衰退していくものだということ。また、多様な産業構造は多角化されていく国際経済の形態に素早く適応するために必要であるということ。更には将来にわたる持続的な発展のためのプランを持っているべきということですね。まさに「国家百年の計」です。

富の源泉を国家が押さえ、その配分によって国を維持するレンティア国家。その展望は決して明るいとは言えないでしょう。現時点でレンティア国家と見なされているサウジアラビアやアラブ首長国連邦などですら、大規模な工業団地を建設したりして、''ポスト石油''の産業基盤を模索中です。これを見ると、「今までこの方法で上手くいったんだからこれからもこれで上手くいくし、そうでなければならない」という精神論では生き残れない時代になっていることを痛感します。アドホックな政策が必要でしょう。

ナウルは不名誉にもその反面教師となってしまったのです。20年前は世界で最も豊かな国と言われたらしいですが、まさかこうなるなんて。いやはや、わからないものですねぇ…。何より、国民に働くことを教えないといけませんね。そのような国民教育を実施してこなかった代償は高くついたようです。支援をテコに他の産業を育成し、なんとか復興してもらいたいものです。幸いにも漁業は開発の余地がかなり残されていますから。

コメント

非公開コメント

資源があるのも考え物

資源の富に溺れて自滅した国ですね。

日本は採算の取れる資源が少ないからこそ、殖産興業が成功したのかも…。そうしないと国を富ませられないわけだし。

自分で創意工夫する能力は「国力」の重要な要素ですね。

そういえば学生時代の先輩ってやたらとレンティア国家をテーマにしてましたよね。

Re: 資源があるのも考え物

> 小国マニアさん

そうですねぇ。なまじ富があると現状に慢心して先に進むことを忘れてしまうのかも。人間を進歩は、ある事態に対応する必要に駆られることで成されてきましたから。充足を感じている時点で進歩は止まるのかもしれませんね。

Re: タイトルなし

> ちーちゃん

そうだっけ?
でも、なんかそういう国って面白いや~んv-10

他にもナウルのような状態に陥ってる国ってありますか?

Re: タイトルなし

> カルマさん

ナウルのような状態の国…。定義が曖昧でどのような状態を指し示すのかは判断が難しいですが、「採集・採掘といった低次の産業に依存した結果、その産業の衰退により国が立ち行かなくなった国」でよろしいでしょうか?

結論から言いますと、この定義にナウルほど当てはまる国というのは少し見当たりません。他の国は各々、規模の差や産業形態の差異こそあれ、代替産業を開発した、もしくは開発途上と言えます。2008年の金融危機で、アイスランドなど金融業に依存していた国々の経済状況は大きく後退しましたが、これでは定義の最初のほうの部分に合致しません。

モノカルチャー国家にまで裾野を広げてしまうとキリがありませんし、ナウルと同様の状態にある国というのはちょっとわからないですね。私の知識不足なだけで、本当はあるのかもしれませんが…。でももし中東の産油国が代替産業を開発しないまま石油が枯渇したら、ナウルみたいになる国が出てくるかもしれませんね。

面白い!

 「レンティア国家 資源 枯渇」でググったらこちらがヒット。大変興味深く読ませていただきました。やはり鉱業系の会社にお勤めの方はこういった事情にお詳しいですね。
私は今度大学4年生になる政経系の学生なのですが、就職は決まっているものの、卒論のテーマで困っています。教授に相談したところ、レンティア国家という面白いカテゴリーがあると聞いて調べていました。
 この記事の他にも国旗という珍しいテーマを扱ったブログということでとても楽しんで読ませてもらっています。海外駐在でのお仕事は大変かとは思いますが、今後も興味をそそられるような記事をじゃんじゃん書いてください。陰ながら応援e-68致します

Re: 面白い!

ありがとうございます。励みになります。卒論はダルいですよねぇ、準備に相当時間かかるし…。でもこのご時世に就職が決まったのは喜ばしいこと。大学最後の1年間、勉強に遊びに全力投球してください。社会人になるとなかなか遊べませんからね。
プロフィール

嫁ドリル

Author:嫁ドリル
国旗と酒をこよなく愛する関西女。
カイロ、ドバイ、カルガリー駐在員を経て、現在は関東で働きながら旦那と1女1男の4人暮らし中。

国旗に関しては、まずは基礎知識カテゴリを熟読して下さい。

ツイッターやってます。基本的に更新情報はここでつぶやいてます。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

外部リンク
QRコード
QRコード
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
Flag counter